コロナ禍という外的要因とその後の経済再開から数年が経過し、最近の消費者行動は「価格、利便性、選択肢」といった長期的な優先事項へと回帰しています。本レポートでは、こうした変化が小売事業者、サプライチェーン、物流不動産に与える影響を、Eコマースの次の成長フェーズに注目しながら分析します。
キーメッセージ
- 小売売上成長の半分超がEコマース
予想された通り、オンラインセールスの市場シェアが拡大し続けています。2024年には、米国における小売売上成長全体の56%をEコマースが占め、前年比で8.0%増加しました。これに対し、実店舗における販売はわずか1.8%の増加にとどまりました1。 - 過去5年間で、米国企業は物流施設を拡大する一方、小売店舗の規模を縮小2
オンライン収益が成長を牽引し、十分な規模に達する中で、小売事業者は不動産戦略を見直しています。コロナ前と比較すると、米国における物流スペースの稼働面積が12%増加した一方で、サービス業を除く店舗スペースは2.4%減少しました。 - 物流不動産の新規需要に占めるEコマース比率が、パンデミック前の平均よりも上昇
2024年、物流施設の新規賃貸契約に占めるEコマース企業の割合が、世界全体で19%以上に達しました。これは2023年および、2017~2019年(コロナ前)の平均である18%をいずれも上回る結果となりました3。 - 2024年時点でも、Eコマースは実店舗と比較して3倍の物流スペースが必要4
この比率は過去10年間にわたってほぼ変化がなく、業務の効率化が進む中でも、依然として物流不動産の需要をけん引しています。2030年には、米国のEコマース普及率が現在の24%から30%に達する見込みであり、このシェア拡大だけでも今後5年間で2.5億~3.5億平方フィート(約2,320~3,250平方メートル)の物流スペース需要が生じる見込みです1。 - 越境Eコマースが躍進6
2024年、越境Eコマース主要プラットフォームの米国内売上が倍増し、約440億ドル(約6兆6000億円)に達する見込みです7。この越境Eコマースの拡大によって、主要都市圏やラストワンマイル拠点における物流施設需要が高まっています。
Eコマースが小売売上成長を牽引しています。2024年、米国におけるEコマース売上が小売売上成長全体の56%を占め、前年比で8.0%増加しました(実店舗での販売は前年比1.8%増)。商品価格の上昇率鈍化を考慮すると、前年比成長率は実質で10%に相当します。パンデミック開始からの5年間で見ると、Eコマースの年平均成長率は16%であるのに対し、実店舗販売は5%にとどまっています1。
米国における年間小売売上成長/販売チャネル別|単位:10億ドル(前年比)
越境Eコマースは成長分野
規制変更を見据えて、越境Eコマース企業は米国内の物流ネットワークを拡大し、将来に備えた事業基盤の強化を図っています。
- 越境Eコマースの主要プレイヤーが米国展開を加速しています。主要プレイヤーであるSheinとTemuの合計売上高は、2022年の60億ドル(約9000億円)から、2024年には約440億ドル(約6兆6000億円)へと急成長を遂げました7。この勢いを維持するため、両社はビジネスモデルの変革を進め、米国内でさらに多くの販売事業者を取り込むとともに、物流拠点網を拡大しています8。
- アジアの3PLが台頭しています。2024年、アジア―主に中国系の3PL事業者が、米国における物流不動産の新規賃貸契約の20%近くを占めました。特に南カリフォルニアや北東部地域でその存在感が際立っており、初期データによれば、2025年も同様の比率を維持する見込みです。
少額輸入品への免税基準変更による影響 8
輸入企業は、貿易規制における免税基準の撤廃または縮小の可能性を見越して、1年以上前から対策を進めてきました。Shein、Temu、TikTok Shopなど、ファストファッションやEコマースのプラットフォームはこの流れをさらに加速させています。現在、免税対象となる少額輸入品は、米国全体の輸入品のうちわずか2%、アジアからの輸入品では4%にすぎませんが、航空便を利用した受注生産モデルに依存している企業は、対応を迫られることになります。免税基準が撤廃された場合、低コスト海上輸送への転換、配送リードタイムの長期化、国内での在庫保有戦略の導入、といった変化が必要となり、サプライチェーンは既存の米国Eコマース企業に近い形へと変化していくことになります。
小売事業者は店舗の展開規模を見直しており、2024年の店舗閉鎖数が2020年以来最多となる見込みです。在庫や業務機能が物流施設へと移行するのに伴い、店舗で商品を確認してオンラインで購入するショールーミングや小型店舗、店頭在庫の絞り込みといったトレンドによって、店舗での商品入手が難しくなる一方、近隣倉庫からの迅速な補充・配送ニーズが高まっています。Eコマース企業は事業規模を拡大しながら、輸送効率の向上にも取り組んでいます。
店頭での購買機会減少に加えて、オンラインストアの利便性、豊富な選択肢、透明性の高さと相まって、Eコマースのマーケットシェアは今後も拡大すると見込まれています。2030年には、米国における物品販売の約30%をEコマースが占めると予測されています。
米国における稼働スペースの推移:物流スペース vs 小売スペース|2019年末を100とした指数
小売事業者はサプライチェーンへの投資を拡大しています。オンラインによる収益が成長を牽引し、十分な規模に達するにつれ、小売事業者は不動産戦略の見直しを進めています。パンデミック前と比較すると、米国における稼働中の物流施設面積は12%増加した一方で、サービス業を除く小売店舗の稼働面積は2.4%減少しました2。これはパンデミック時特有の傾向ではなく、2024年には、世界におけるEコマース企業の新規賃貸契約割合が19%に達し、2017〜2019年(コロナ前)の平均である18%をわずかに上回りました3。
近年の賃貸契約動向は、主要な物流ハブに集中しています。2024年、米国におけるEコマース企業による新規物流施設契約のうち55%が、南カリフォルニアやニューヨーク広域都市圏、シカゴの3大主要市場で締結されました。多くの企業が、スケールメリットを活かして上流工程の効率化を図るため、大規模施設の集まるサブマーケットを中心に拠点確保を進めています。
Eコマースによる新規賃貸契約の割合(世界)|全体の新規賃貸契約に占める割合(%)
消費者ニーズの変化が、都市型物流施設への需要を加速させています。2024年には、消費者の76%が「返品無料」を期待しており、2019年の40%から大幅に増加しています。また、70%が「即日または翌日配送」を求めるようになりました9。こうしたニーズに応えるため、小売事業者は倉庫立地とフルフィルメント戦略の見直しを図っており、都市圏近郊でのリース需要をさらに押し上げると見られます。
この変化が、サービス品質と配送スピードの向上をもたらし、Eコマースのさらなる成長と配送・フルフィルメントセンターの需要拡大を後押ししています。とはいえ、実店舗が消滅するわけではありません。物販を中心としたテナント構成から、サービスや体験型施設・ショッピングが融合した多様な業態へと移行しており、特定の小売業態は引き続き好調を維持しています。
欧州におけるEコマース拡大の展望
堅調な成長が続いているとはいえ、欧州におけるEコマース普及率は依然として10%にとどまっており、英国の33%を大きく下回っています。これは、今後の市場拡大余地が大きいことを示しています10。デジタル化の進展に伴い、物流不動産の需要も今後さらに高まる見込みです。Shein、Ali Express、TemuといったアジアのEコマース企業は急速にシェアを拡大しており、現在ではスペインのEコマースシェアの34%を占め、ドイツ市場でも2022年の2%から2024年には7%へとシェアを伸ばしています。少額免税基準の改革が、これらの企業の成長を鈍化させる可能性はあるものの、欧州のローカルプラットフォームもShein、Ali Express、Temuなどと同様のメーカー直販モデルにシフトし始めています。Eコマースが年率5%超で拡大する中、今後5年間で毎年1,500万~2,000万平方フィート(約140~185万平方メートル)の物流スペースが必要になると予測されています。
「3倍ルール」は10年経った今も有効であり、Eコマースの成長が物流需要に与える影響を一層強めています。プロロジスリサーチは2014年以降、Eコマースのフルフィルメントで必要となる物流スペースと、実店舗向けに必要となる物流スペースの関係性について調査・分析をしてきました。自動化やAI技術の進展にもかかわらず、両者の関係性はほとんど変化がありません。物流効率化による省スペース化の動きに反する要因として、商品のラインナップ拡充、在庫の積み増し、スペースを要する直販配送、返品処理業務、組立作業などの付加価値サービス要素が挙げられます。
Eコマース普及率の上昇は、物流施設需要の増加に直結しています。米国では、Eコマースの市場シェアが1%増加するごとに、5,000万~7,000万平方フィート(約465〜650万平方メートル)の物流施設スペース需要が発生します。2030年までにEコマースシェアが現在の24%から30%に拡大すると仮定した場合、Eコマースだけで2.5億~3.5億平方フィート(約2,320~3,250万平方メートル)の物流施設が新たに必要になると見込まれています。
米国におけるEコマース普及率|主要小売商品の販売に占める割合(%)
結論
Eコマースは依然として物流不動産需要の主要因であり、小売事業者はオンライン販売の拡大に対応するため、物流ネットワークの拡充を進めています。Eコマース普及率が上昇するにつれ、企業は配送スピードの向上を目的としてサプライチェーンの再構築を進めており、好立地にある物流施設への需要がさらに高まっています。こうした構造的な変化は、今後も物流不動産市場の形成に大きな影響を与え、デジタルコマースの拡大とともに、堅調な需要を維持する見通しです。
文末注
- 米国国勢調査局(U.S. Census)、プロロジスリサーチ
- Costar、プロロジスリサーチ、Form 10-K(企業年次報告書)
- Prologisのポートフォリオデータ
- プロロジスリサーチ による分析:E-commerce and the New Demand Model for Logistics Real Estate
- Emarketer、プロロジスリサーチ
- 注:越境Eコマース:販売が国際的または地域をまたいで行われるオンライン取引のこと
- SheinおよびTemuの米国GMV(流通取引総額)に関するプロロジスリサーチ の推計(Coresight、Emarketer、Business of Apps、Ecommerce DBに基づく)
- 注:米国における「de minimis」税制優遇制度では、1日あたり1人の消費者あたり800ドル未満の輸入品は税・関税が免除される。EUなど他地域にも同様の免税制度があり、例:EUでは150ユーロ未満が対象。
- 全米小売業協会(National Retail Federation)
- プロロジスリサーチ
- 米国税関・国境警備局(U.S. Customs and Border Protection)、米国国勢調査局(U.S. Census)
プロロジスリサーチについて
プロロジスリサーチは、世界4大陸にわたる基礎的市場動向や投資トレンド、顧客ニーズの調査・分析をすることで、機会の発見とリスク回避を支援しています。また、ホワイトペーパーやリサーチレポートの発行に加えて、投資判断や長期戦略策定にも寄与しています。
プロロジスは、グローバルにおけるサプライチェーンの課題や、物流・不動産業界における最新の市場動向など、カスタマーのビジネスに影響を与える要素に関する研究成果を広く公開しています。
また、プロロジスリサーチは社内のすべての部門と連携し、市場参入、拡張、買収、開発に関する戦略策定を支援しています。